飛夏羽が泣き止んだ頃には夜の九時になっていた。
涙を拭いてベッドに座ると、其処へ翔太が入ってきた。

「飛夏羽…飯だってさ。」

 飛夏羽は首を横に振って翔太を見つめた。

「…如何した?」
「政略結婚…嫌じゃないの?」

 翔太は黙って飛夏羽のベッドに座った。

「…政略だし…仕方無いだろ。それに…俺は飛夏羽だから良いよ。」

 飛夏羽は翔太の手をそっと握った。

「はぐらかさないで。…はぐらかして嘘吐いたって…そんな嘘吐かれても嬉し
くない。」
「嘘なんかじゃねぇよ。…飛夏羽、これ見て。」

 翔太は洋服の裾を捲って飛夏羽に見せた。
翔太の手首には何個もの針の跡が付いていた。

「…それ…」
「…麻薬。」

 飛夏羽は驚いて翔太の目を見つめた。

 翔太は飛夏羽から目を逸らして飛夏羽の手首を優しく握った。

「飛夏羽は…こんな事になるなよ…約束しろよ。」
「…うん。」

 翔太は飛夏羽から手を放すと立ち上がりドアの前まで行った。

「…飛夏羽は良いのか?」
「え?」
「千葉の事…良いのかって。」

 翔太は振り向いて飛夏羽を見た。

 飛夏羽はそっと頷き、俯いた。

「…これで…良いんだよ。これで…何もかも…」
「…そっか。じゃあ俺…食ってくるな。」

 翔太はそう言い残して飛夏羽の部屋を出て行った。

 飛夏羽は自分の冷たい手で目を冷やし、そのままベッドに寝た。

「…空腹…紛らわさなきゃな…」

 飛夏羽は電気を消し、布団に潜り込んだ。

 明日は学校が待っている。

 優都に会うのは辛い、だが優都も逆に辛いのだ。

 飛夏羽は目をしっかりと瞑り、そのまま眠りについた。