『――零』


先生の低い声が、すぐ耳元で聞こえた気がして、あたしは思わず驚いて顔を上げた。


そういえば、キスする寸前に――先生が、初めてあたしの名前を呼んでくれた。

びっくりして先生を見たら――。


思いだしただけで、身体に熱がこもったように、ぽうっと熱くなる。


「――零ちゃん」


雄太くんに名前を呼ばれて、ようやく我に返った。


「大丈夫?何度も呼んだんだけど――」


どうやら、雄太くんの声が、あたしの中の先生の白昼夢とダブってしまったらしい。


「ご、ごめん!大丈夫!――どうしたの」


「いや、このやり方がわかんなくて」


パソコン室の天井の空調から流れてくる冷たい風が、あたしのほてった心を冷ましていく。





「どうしたの?零。今日なんか変だよ」


でもやっぱり、あたしのファーストキスから広がった熱は、表立ちすぎて――


「ううん...」


ふたりに散々変な目で見られてしまった。


「先生とケンカでもした?」


「まさか、ふられた?」


必死に心配してくれるふたりが嬉しくて。


「――チュー、しちゃった...」



その後あたしは、ふたりに大笑いされたのでした。