そこで先生は、大きなショッピングセンターの駐車場の一角に、車を停めた。


「すこし休憩な」


「――あ、そうですね」


相変わらず、無意識に出てくるあたしの敬語。


もう3時を過ぎたということもあって、大きな樹からは影が伸びて、見事な日陰を作ってくれている。

リクライニングを倒すと、なんだか気持ちもラクになってきた。


「あと少しで一ヶ月ですね。付き合ってから」


「だな。早かった」


そんな会話を交わすうちに、緊張がほぐれて、あたしはうとうとしだした。

まぶたがとろんと重くなってくるのが、自分でもよくわかる。


せっかくの先生とのデートなのに!

でも、先生の隣ってひどく落ち着いていられるから――ついつい眠くなっちゃうんです。


もう起き上がらないと、ほんとに寝てしまう、と自分でも自覚したとき――


「零」


先生の低い声に名前を呼ばれて、びっくりして横を向いたら。


「――」


初めて、名前を呼んでもらえた。

でもそれ以上に、驚いてしまった。





くちびるが、重なっていた。