溺愛ハニー



「あ」




玄関まで歩いてきたところで、俺は立ち止まる。

小夏が「どうしたの?」と俺の顔を覗き込んだ。


ブレザーのポケットに入ってるはずのものがないことに気づいたのだ。




「…ケータイ忘れた」




帰りのHRでケータイを構っていたら、担任(ちなみに、去年と変わらず佐久間だ)に呼ばれてとっさに机の中に入れて…そのままだった。


ケータイはないと困る。


小夏に「ここで待ってろ」と言って教室への道(廊下だけど)を戻った。





教室には誰もいなかった。

ある場所はわかっているので、一直線に自分の机へ向かう。


ケータイだけ持ってすぐに教室を出た。



ガタンッ!

俺がドアを出たところで、隣の教室から音がした。


誰かいるのかと思ったが、まぁ実際誰がいても関係ない。


しかし…条件反射とでもいうのか。

その“誰か”が教室から出てきたのが音でわかり、俺はチラリと顔をそっちの方へ向けた。

…顔が向いてしまった、という方が合ってると思う。