「イチ先輩」




渡り廊下を歩いていると、聞き慣れた声、呼び方に足を止めて振り返る。

ハルだった。




「こんにちはっ」

「ハルはいつも走って来るよな」

「そういえばそうですねっ…」




息を切らしながら話すハルを見て、俺は笑った。

毎回パターンは同じだからな。




「んで、どうした?」

「今日、小夏先輩は一緒じゃないんですね?」

「クラス違うし、10分休みまでずっと一緒にいるわけじゃねーよ。小夏に用事?俺でいいなら聞くけど」

「はい、あの、コレ…」




ハルが俺に差し出したのは、生物の教科書だった。




「昨日、移動教室の机に入ってるの見つけて…小夏先輩に渡そうと思って私が持ってたんです」

「…何で小夏のだってわかった?」

「裏表紙にイチ先輩の名前がハートで囲ってあったので…」

「…あぁ」




それは100%小夏のだな。


見たのがハルでまだよかったと思うべきか。