私は駅に着くと直ぐに切符を買って乗車しようとした。
ところがお金を入れてもお金が戻ってきて切符が買えないのだ。

「あ、あれ?何是…是じゃあ切符買えないよぉ。」

何度入れてもお金は戻ってくるだけで、仕方なく私は後ろを振り向いた。
すると其処に悠太の姿はなかった。

「…え?え?悠太?悠太何処!?…何で悠太いないのぉ…」

 私は恐怖心に襲われ、その場に座り込んでしまった。
何故か周りにも人は居なかったのだ。
私が泣き出そうとすると遠くでバイクの音が聞こえてきた。
顔を上げた先にはバイクで駅のロータリーを走ってくる悠太の姿があった。

「悠太ぁ!」

 私はぽろぽろ涙を零しながら走ってきた悠太に抱きついた。
余りにも突然のことだったので悠太は驚いて顔を真っ赤にしながら私を見つめて
いた。

「あ、空澄霞?如何したの?」
「だってぇ~…急に居なくなっちゃうんだもぉ~ん…」
「先に居なくなったのは空澄霞の方じゃんよ…」
「ごめんなさ~い…」

 悠太は『ふふっ』と優しく微笑し、もう一つのヘルメットを泣いている私に被
せて来た。

「渋谷、行くんでしょ?乗って。」
「…うんっ。」

 私は悠太の後ろに乗り、悠太の背中に確りと抱きついた。
悠太はもう一度エンジンを掛け、ブレーキを思い切り踏むとそのまま猛スピード
で発進していった。
だが、悠太は途中で『あ…』という小さい声を出して顔を青ざめさせていた。

「…悠太?如何したの?」
「…ごめん…いつもの癖で…道…間違えたっ…」
「え?…え!?」

 目の前にはエスカレーターと階段しかなく、バイクや自転車用の道はなかっ
た。
『確りつかまってて空澄霞!』悠太はそういうと一度重心を前に倒し、その後思
い切り空を…飛んでしまった。

「きゃあああ!!」

 一瞬だけ体が宙に浮き、ジェットコースターの落ちる時のようだった。

 悠太は地面にバイクで降りると、そのまま渋谷の方へバイクを走らせていっ
た。