「おはよう、藍ちゃん!」

食卓に向かうと、母親がニッコリ笑って僕を迎える。

毎朝のこの振る舞いに、 「おはよう」と答えたものの、僕の視線の先はその笑顔ではない。

フライパンのオムレツに目をやり、焦げ具合を確認するのだ。

毎朝の食卓に必ず並ぶこのオムレツ。
僕がオムレツ好きなのは間違いないのだが、母親はいつも焼きすぎるので半熟具合がいまいちなことが多い。

ぱっと見た感じ、今日もいつも通り。

だけど、それをわざわざ母親に言うようなことはしない。

どう遠回しに言ったってこの人は自尊心を傷つけられたとヒステリーを起こすに決まってる。

僕はそのことを知っている。

一日の始まりにあの甲高い声を耳にするぐらいなら、僕は少し固いオムレツを食べることを選ぶ。

そうやってやり過ごす。


隣の椅子に座り英字新聞を読む父親は、このオムレツをどう思っているのだろう。