目にたくさん涙浮かべて
唇噛みしめて
アゴを震わせる母親を
青波はスプーンくわえて
見上げてた




イチは そんな青波の視線に
まったく気がついてない



いつもなら
神経ピーンと張り巡らせて
青波の一挙手一投足
見逃さないのに



ほらな
やっぱり
キャパオーバーしてたんだ



でも、そっか
知らなかった


それだけじゃないだろうけど
メールの事………


イチを傷つけてたんだな……




「………バカにしてるんだよ


先生は私のことバカにしてる


自分が何したって
どうせ逃げる場所
ないだろうって


私が…………
高校も中退で
親もいなくて
ひとりぼっちなのをいい事に


先生、バカにしてる……」






「まーまー、まーまーま」



重たい沈黙の中
青波の無邪気な声が響く



イチは青波を見て
口を開きかけたけど
何も言わず
視線を逸らした



今、青波に声をかけると
泣いてしまいそうだ
というのが見てとれる



何があっても
子供の前で泣くものか
頑固なイチの考えそうな事だ




はぁ……って
1つため息ついてから


「青波、おいで
パパの部屋で
二人で遊ぼう」



「ぱっぱー」



ダイニングテーブルの椅子から立ち上がり
青波へ腕を伸ばすと



「触らないで!」



イチの厳しい声が飛んできて
青波が身体をビクッとさせた



「美味しいとこ取りなんて
やめてよね………
いつも通り
1人で部屋引っ込んで
メールすれば………?」



「…………わかったよ」



………もう こうなったら
手をつけられねぇな
冷却時間をおかなくちゃ



………だけど


リビングを出る時
ダイニングテーブルで
頬杖をつくイチを振り返る



「だけどさ、イチ」