気づけばあたしは走り出していた。






呆然としていたさっき―――結城に手を掴まれ我にかえると、やっと体が言うことを聞くようになった。



その手をさっきよりも強く、振り払った。



名前を呼ばれたけど、背中を向けてひたすら走った。





息を切らしたからってどうにかなるわけじゃない。


でも、何かしないと頭がおかしくなってしまいそうで。



必死で走った。



一階まで階段を駆け降りて、雪の降る中に突っ込んでいった。




余計苦しいだけなのに。




――…ねぇ、どうして?


どうしてあたしを置いていったの?




そんな理不尽な問いだけが頭をよぎり、それは浮かんだ瞬間に自分への戒めと姿を変える。

置いていったのは、あたしの方だ。


奪ったのは、あたしだった。





ああ、こんなにも雪が怖いのに、同時に、あなたがいるようで、愛しい。


胸は苦しいのに温かくなる。

頭は割れるように痛いのに、その痛みさえ愛しくて。



そなうち、体力に限界がきて、グラウンドのど真ん中に立ち尽くす。




「アオ……」




あたしのつぶやきは雪に吸い込まれて消えた。



最初から何もなかったように。