「なんの話だったの?」
「え?」
「…さっき」
そう言われて椎名くんのことだとやっとピンときた。
「さぁー…、途中で藍来たから、わかんない。『一緒に』とか言ってたから、練習のことかな?」
「ふーん…」
自分から聞いたくせに、藍は無表情のまま興味なさ気にため息をつくように相槌を打つ。
「あ、ごめん、今日俺こっちなんだ」
そう言って、いつもと反対方向の道を指差す。
「そうなんだ、用事?」
「レッスンなんだ、今日」
「あれ、藍っていつも休日にレッスンじゃなかった?」
「そうなんだけど、あー…と、こないだの休みに別の用事が入ったから変えてもらったんだ」
「ふーん…?」
妙に歯切れの悪い藍に首を傾げながら、がんばってね、と手を振る。
「六花も気をつけて、送ってやれないけど」
「大丈夫だよ、ありがと」
最近、藍は遠回りをしてまであたしを家まで送ってくれる。
あたしとしては嬉しいのだが、どういう風の吹き回しなのか、ちょっと怖い。
平穏のように思える日々だけど、消化しきれていない疑問や、整理のつかない気持ちが、時々頭をもたげてあたしに襲い掛かる。
結局何も解決せず、すべてが宙ぶらりんのまま怯えているのだ。
果たしてあたしたちは前に進めているのか。

