三年というブランクは、思ったよりあたしに打撃を与えていた。
楽器などをしていると、よく『一日サボると一週間分退化する』という。
まさにその通りで、すると今のあたしはほぼ初心者に等しい腕前ということだ。
ポップスもまともに弾けないなんて、中学生でも楽勝に弾けるのに。
ほんとに『弾ける』だけで、そこから評価は進まないことをあたしが一番痛感している。
「楠さん」
声をかけてきた椎名くんをピアノ椅子に座ったまま見上げる。
さすがにもう初対面のときのようにどもることはなかったが、それでもいつも彼はどこか照れ臭そうに話す。
「俺の指揮、見にくくない?なんか弾きづらそうだったから」
さらに傷口をえぐらないでほしい。
あたしは十分反省しているのに。
そんなことを噫(おくび)にも出さず笑顔で返す。
「ううん、大丈夫。あたしがちょっと指揮見れてなかったの」
「それならいいけど…」
そう言って椎名くんが黙ったから、あたしは帰ろうと思ったのだが、なぜか彼はそこから動かない。

