「あ、ねぇ六花」
うきうきしながらリビングを出ようとした足を止める。
呼び止めたママの言葉の続きを首を傾げて促す。
「やりたい曲ってなんなの?」
きっと何気ない疑問。
それなのにあたしはドキ、とする。
聞かれるとなんだか気恥ずかしいのだ。
「べ、別に、決めてないよっ」
言い逃げするようにリビングを後にした。
あの譜面を思い出す。
いつかやってみたかった曲。
誰かが教えてくれたんだ、とても素敵だから、いつか自分もやりたいんだって。
それがずっと頭に残っていた。
優しい声音で語って聞かせてくれたあれは、誰だったろうか。
うろ覚えの旋律を抱いて眠りについた。