親にそんなことされて平気なはずがない。
それなのに、藍は泣かないんだ。
きっと、そのときだって泣かなかった。
「まぁつまり“変わった“んじゃなくて、逆に“変わらなかった“んだけどね」
そういうことか、と納得した。
「それでも人がせっかく、和解しようと思ったのに今でも年に一回会うか会わないかだし」
でも、と藍は続ける。
「もういいんだ。俺には母さんが教えてくれたバイオリンがあるし、それを続けさせてくれてるだけで、いい」
「バイオリンは、お母さんから習ったんだ?」
そう、と柔らかい笑みを浮かべる。
ああ、お母さんが大切だったんだと一目で分かる。
「元々バイオリン専攻で、二人暮らしになって忙しくなっても教室に通わせてくれたんだ」
「…いいお母さんだね」
同情とかじゃなくて、ほんとにそう思ったんだ。
「だから余計に……母さんを一人にした親父より、負担をかけて守りきれなかった自分を恨んだ。…六花みたいに」

