「ここ…?」
藍に連れられてきたところは閑静な住宅街。
中でも一目で高級だと分かってしまうようなマンションの前にあたしたちは佇んでいた。
ほぼ顔を真上に上げた状態でその白い壁を見上げていると、藍が動いたのが横目で見えたので、首の痛みに顔をしかめながらあたしも慌てて続いた。
「え、ここ、入るの?」
手慣れた様子でオートロックを解除する藍。
まさかまさかまさか。
「ら、らん…ここ、入るの?いいの?」
まさかと思いつつ、返事をしない藍に何度も確認する。
しつこく疑うあたしに、やっと藍が口を開いた。
「いいんだって。ここ、俺んち」
俺んち。
オレンジ?
俺、オレ、……藍のこと。
ち。
家。ですか。
オレのうち。
「ぇえ――――――!?」
狭いエレベーターの中で大声で叫ぶ。
藍が耳を押さえて嫌な顔をしたがどうでもいい。
小さな箱にふたりきり…とか喜んでる場合ではない。
憧れのシチュエーションに胸の高鳴りを覚えている場合ではない。
「こんなとこ住んでるの!?」
だってなんか中庭っぽいのあったよ?
勝手に藍は所帯じみてるなーとか思っていたからなんか拍子抜けだ。
「そんな驚かなくても…」
心外だとでも言うように拗ねた顔をした藍が可愛くて、少しあたしの気持ちも凪いだ。