「じゃあこれ、楽譜です」
どうも、と小さく言って受け取る。
結局、汐に言いくるめられ、また力に負け、練習場の体育館に来てしまった。
初見だから難しいのだったらどうしようと思ったけど、ちゃんとした合唱曲ではなく最近流行りのポップス曲だった。
これなら大丈夫。
「あの、もし弾けなかったら今日はパート練だけでも」
指揮をするらしい男子生徒が遠慮がちに言った。
同い年のはずなのに、どうして敬語なのか。
「ううん、大丈夫。弾けるよ」
「じゃあ、早速いいですか?」
その下手な態度に思わず、ふっと小さく笑ってしまった。
そんなあたしを不思議そうに戸惑い見る彼に気付き、ごめん、と謝る。
「なんで敬語?同い年でしょ」
そこで彼も気付いたのか、ほんのりと赤くなって頭を掻いた。
「や、なんか…。楠さん、話したことなかったし」
「あれ、名前知ってるの?ごめん、どこかで会ったかな」
素直な疑問を投げ掛けたら、何故か彼はより一層あわてふためき頬を真っ赤に染めた。

