「そういえば、六花。」
ぎくり、として後退りする。
きた。
そんなあたしの手を掴んで、冷ややかな笑顔で聞く。
「その様子だと、まだ両親と話せてないのか?」
「えと、いや−…。」
苦笑いして目を逸らすと、藍はため息をついてあたしの腕を掴んでいた手を離した。
あきらめてくれたのかとほっとしたのもつかの間。
「ひぁ!?」
そのまま、その手を腰に回してきて、ぐっと引き寄せられる。
「ちょっと!離せ!!」
真っ赤な顔で怒鳴るあたしを意にも介さず、もう一方の手であごを掴んでぐっと持ち上げる。
「だったら、なんでまだなのかなぁ。」
嫌でも至近距離でかち合う視線。
整った藍の顔に胸がときめいてるのは、きっと間違いだ。
そうに違いない。
「タイミングってのがあるでしょ!!あたしだって、はなし、話しようと思ってるもん!」
じとーっと見つめてくる藍の顔は今だに目の前にある。
「ふーん…。噛んだけど?」
しまった、と視線を無理矢理外したのが間違いだった。
「やっぱり、まだか。」
そう言って、やっと解放してくれた。
腕が緩んだ瞬間、さっと藍から遠退く。
「そんな警戒しなくても、襲わないのに。」
両手を上げてにこやかに言う藍を睨みつける。
「じゅーぶん、襲われてるわよっ!」
誰かに見られたらどーすんの、とも怒鳴りつけるが、藍は人前ではこんなことしない。
薄々感づいてたが、こいつはちょっとした二重人格だ。

