この瞬間。
二人が同じものを同じように感じた瞬間。
あたしが感じるものに、藍も同じような感性で捉えることが多かった。
例えば、雨が降る前の空気。
秋と冬の変わり目。
朝、今日は夕焼けがきっとキレイだとか。
これまでに何度も何度も同じことを感じた。
晴れてるのに、雨が降るかな、とか。
コートを着込んでても、まだ秋だね、とか。
雪が降った朝の匂いとか。
太陽が照り付けるほど晴れなのに、雨降りそう、とか。
あ、と思ったときには、藍があたしの言いたかったことを言う。
「…あ。」
ほら、今も。
多分、全身で春を感じてる。
ちなみに、ニュースで見た桜予報とやらでは、八分咲きだった。
あたしたちの地域ってあったかいしね。
でも。
「もう満開だね。」
あたしの言葉に藍が瞳を開ける。
「だな。」
やっぱり。
あたしたちって、犬っぽいかも。
誰に言っても分からないことが、藍となら共有できるのだ。
それが嬉しい半面、恐れていることがある。
その恐怖が現実化することを、まだあたしは知らない。

