部屋には一台のピアノと

無造作に重ねられた教本や楽譜。


小さいころにはたくさん飾ってあった写真は今はない。

フォトフレームだけが静かに鎮座している。



そっとピアノに近寄って触れてみる。



ほこりはなく、すべすべした感触だけがあった。

きっと、あたしがいないうちにママがこまめに掃除してたんだ。


もしかしたら今でも弾いてるのかも。


あたしが、傷つくから、こっそりと。


ママから大好きなピアノを奪ったのはあたし。

たくさんの人を傷つけた。


…パパだって。




長いほうのカギをピアノの鍵穴に差し込む。



暗いはずなのになんで見えるのかな、と思って、そこで初めて今日は満月なんだと気づいた。


月の光は決して弱くなかった。


カーテンの隙間からでもちゃんと届いてる。



もっと明るくしようと思ってカーテンを全部開けた。


電気だと、見えすぎるから。