「ただいま‐…。」


ローファーを脱ぎながら呟くと、ママから返事があった。


地獄耳……。


まぁピアノはママに教えてもらってたから耳が良いのは当たり前なんだけど。



……ピアノ、か……。




スリッパを履きながら、玄関から見てすぐ左、階段の前にある扉に視線をずらす。


・・・・
あのときから『開かずの間』となっている部屋には、カギがかけられたままもう何年も入っていない。




ぼーっと見ているとママが不審がってあたしの名前を呼んだ。




やっぱりあのときから嫌いな名前。


でも藍に呼ばれると、不思議と小さいころのように嬉しくなる。



……藍のこと、最初に嫌ってたのがウソみたい。