…無理だと思った。 あそこにいた親父は親父じゃなくて、トラストの社長だったから。 あの目は社長の目をしていた。 だから無理だと思った。 俺が立ったのを見て紅雨も立ち上がり、 「おじさん、ありがとうございました。」 と言った。 紅雨はこう見えて物わかりがとてもいい。だから、俺が最後に言った言葉で意味がわかったのだろう。 …俺が頼みごとをしていた人は、社長の璃人であって今は、親父の璃人じゃない。 と言うことを。 「ああ。」 と答えた親父を盗み見ると、難しい顔をしていた。