「どうして、いつも欲しい人は手に入らないんだっ!!」
小さな悲痛な声は由莉には届くことがなく、ずるずるとしゃがみ込んでいく紅雨の手は震えていた。
「…覗き見は感心しないよ。」
膝の間に頭を入れ俯いている紅雨は静かに相手を威嚇する。
「流石那龍の幹部ですね。」
「五月蝿い。総長だからって傘下の奴に負けるわけないだろ。」
「紅雨さんも、那妃に惚れ込むとは…。」
「手だしたら直也でも容赦しない。」
「ははっ!!俺だってバカじゃないんで夜琉さんと紅雨さんを敵にまわすような事はしないですよ。」
「…。」
「そろそろ広間行きません?」
「…行く。」
直也と紅雨のこの会話は一生誰も知ることがない。

