『新着メールはありません』
当たり前。
永久くんからのメールも電話もない。
何回携帯を見ただろう。
ぱたっと携帯を閉じる。
今日は心配した羽夏さんがずっと付き添ってくれた。
今は先生に呼ばれた羽夏さんと別れて女子トイレ。
顔を洗ってすっきりする。
さぁ、教室に戻ろうと振り返る。
「相楽さん」
目の前に立つ足。
見上げると昨日の女子だ。
わざわざトイレにまで迎えに来てくれたらしい。
馬鹿馬鹿しくて笑いが込み上げそうになる。
笑えないけど。
「話しがあるんだけど」
何の話し。
私だって好んでは傷付きたくない。
小さく首を振ると、
「は!?ふざけんなっっ」
ひとりが掴み掛かってくる。
「ニシノ、ハナだっけ?」

1番奥で笑ってる。
前に出ないで四人の女子が私との間を遮っているのに通る声。
顔を上げると、嫌な顔が目に入る。
ぱっちり二重の可愛い造作を持っているのに、性格の悪さが瞳に出てる。
どぅ、いたぶってやろうと冷酷な光がちらちらとその瞳に浮かぶ。
「じゃあ。代わりに一緒に遊んでもらおうかなぁ」
目が笑ってない。
どくり。
胸が波打つ。
『私は透尚が大好き』
今朝の言葉が頭に甦る。
いつも小さな事を見付けては褒めてくれる。
休日には、外に一緒に行こうと連れ出してくれる。
誰も知らない所で、一生懸命励ましてくれる。
永久くんの為に居るのに、関係無い私にも無償で優しくしてくれる。
優しくされて。
………いつの間にか、大切な人が増えた。
見たこと無い羽夏さんの泣き顔が頭に過ぎる。
嫌だ。
嫌だ。
私の問題なのに。
唇を噛み締めた私に、彼女は貼付けた笑顔でにっこりする。
「早く来て。私達もヒマぢゃないしぃ」
素早く私の両側に二人立つ。
さも親しげに左右から腕を組まれて、連れて行かれる。
長い爪がきりきりと腕に食い込んできた。