飛ぶ時は(時空移動する事をそう言っている)みんなそれぞれお気に入りの場所から飛び立つ。
 別に今すぐ道を歩いている途中にだって飛ぶことは出来るのだが、そこはあれ、縁起担ぎというもの。
 何時の時代もそういうものは健在だ。

 わたしの場合、それは近所の学校の屋上だった。
 エレベータで最上のボタンを押すと、心の中からすーっといろいろなものが消えていって、自分が身軽になった気分になるのだ。

 未来へ飛ぶときのほうが、過去のそれより幾分緊張する。
 しかし、五年後は何度か既に経験があったのでまだ心強い。

 それでも緊張を見方につけるように、今日は一番お気に入りの真っ白なロングスカートを着て、…これはいつもの事なのだが、大切な人から貰ったハンカチをポケットの中に忍ばせている。
 私の縁起担ぎは、今日もばっちりだ。


 五年後の人たちは、もちろん配達屋の存在は承知だから、驚きはするものの、事務的に対応してくれる。

「父から……」

 依頼人の面影を確かに引き継いだその息子は、受け取った手紙を、透視できるのではないかと思うほどじっと見つめた後、静かに顔を上げて微笑んだ。

「どうもありがとう。…父はまだ、元気でしたか?」

 流石にあの男の息子である。
 そう感じるしっかりとした瞳は、おそらく既に亡くなっているであろう父を思う気持ちで、微かに潤んでいるような気がした。

「はい。とてもしっかりとした目で…あなたのような優しい目で、この手紙を依頼されました」
「……そうですか…。ありがとう、お嬢さん」

 配達屋の仕事をしていて、この瞬間が、一番好きだった。
 依頼主と依頼先の時を越えて通じた気持ちが、心を満たして、とても暖かい。


 今日も少し、散歩をして帰ろうと思う。
 五年経っても変わらない、青い海を見て帰ろうと思う。