とぼとぼ歩きながら、教室までの道を歩いていた。教室まであと少しのところで足を止めた。
 踵を返し、来た道を戻った。校庭へと向かう足に従うように歩いた。
この学校で唯一安心出来る場所に向かって……


「おはよう」


『おはよう……』


仁に挨拶すると、怪訝な顔をされた。


『教室、行かないの?』


「お前は」


『なんか行きたくない……』


「珍しいな?」


『私もそう思う』


「そういや、さっきの誰?」


『さっきの?』


「首からカメラ下げた変な奴」


仁から見ると繭乃くんは“変な奴”になるらしい。


『繭乃くんとは、カメラ買った時に色々親切にしてもらったの、偶然同じ学校だってしって
今日、部室見に行くからその事で』


「ふ~ん。まぁ、気をつけろよ」


『……ねえ、気づいてたなら、なんで来てくれなかったの?』


自然に聞こえるようにそう質問した。
仁は長い沈黙の後に、「柚樹に捕まった」といった。


『嘘つき』


思ったよりも冷めた声に自分で驚いた。仁は気にする素振りも見せず、「即答……」と苦笑した。


「嫌そうな顔してなかったし、相手がお前の名前呼んだから。なんか期待した?」


『別に。私、教室戻るね?』


立ち上がると最後まで顔を見る事なく、その場を後にした。