靴を履き替え校庭に向かうと、息を整えカバンに忍ばせていたカメラを取り出した。
だんだん近くなる桜の木は、心なしか花が咲いていた時よりも大きく見えた。少し重いレンズを覗き、幹に標準を合わせズームした。


『いた……!』


耳から延びるイヤホンのコードを目で追い、木に寄りかかる仁の姿を見てそう呟いていた。
 桜の少し手前で足を止め、教えられた通り脇を締めそっとシャッターボタンに指をかけた…
【カシャッ─】
ケータイとは違うシャッター音にドキドキした。

 カメラを下ろすと、風が髪を撫でてた。無意識に止まった息を吐き、小さな液晶画面に目を向けた。
ちゃんと撮れているか、それだけが気がかりだった。オートフォーカスに設定してあるとはいえ、確かめない事には安心出来ない。


「葉瑠?」


『はい!!』


ちゃんと撮れていた写真にホッと胸をなで下ろした時、また名前を呼ばれた。振り向いた先には、笑顔の柚樹がいた。


「どうしたの?」


『ううん、なんでもない』


「あ、カメラ買ったの?」


『うん』


「上手く撮れた?」


『えっ?』


「昼寝中の緒方さん撮ってたんでしょ?」


『あ……うん』


戸惑いながらも頷いた。


『最初に撮りたかったの』


カメラを柚樹に渡し、仁を見ながら先を続けた。


「緒方さんを?」


『本当は桜が咲いてる時に撮りたかったんだけど、もう時期が終わっちゃったから……』


「そっか」