「今のあいつには聞くなよ?」


『わかってるよ』


 そんなやり取りをしていると、トイレから柚樹が戻ってきた。そして、声を発することなく仰向に寝転ぶと静かに目を閉じた。


『朝早かったから、眠いのかな?』


 流れる風が心地よくて、目を閉じればすぐにでも眠ってしまいそうな空の下、急に肩が重くなり見ると、いつの間に眠たのか、仁が寄りかかっていた。その眠りに釣られ、いつの間にか眠ってしまっていた。


「おはよう」


 目を覚ますと、柚樹にそう言われた。
どうやら今度は、逆に仁の肩に寄りかかり眠っていたらしい。不機嫌そうな仁は表情ひとつ変えず桜の木に寄りかかっていた。


 ──オレンジに染まる空が、桜の花びらを濃い朱色に変えた頃、片付けを手伝ってくれている柚樹から「楽しかった」と満足げな声が聞こえた。
 公園からの帰り道、着たときよりも帰りが早く感じるのを寂しく思いながら、今日の事を思い返していた。


「あ、葉瑠に見せたいモノがあるんだけど……」


そう言ってケータイを取り出すと、画面を見つめ閉じてしまった。と同時に私のケータイが鳴った。


『柚樹?』


ただ笑うだけで何も教えてくれない柚樹からのメールを開くと「うまく撮れてるでしょ?」と弾む声がした。
 そこに映っていたのは、私と仁が寄り添い寝る姿だった。


『いつの間に……』


「後で緒方さんにも送っておきますね!」


そう言った柚樹が一瞬悪魔に見えた。
 そのあと本当に写真を送ったかは分からないけど、柚樹と別れ、2人沈黙のまま家路を歩いた。


「じゃあ」


最後に交わした言葉が、十字路でのそれだった。


『じゃあ』


結局それ以上の会話はなく、それぞれ家に帰った──