布団に埋もれたケータイを拾い上げ、アドレス帳から仁の名前を表示し、掛けようか迷ってると画面が切り替わった。
“緒方仁”の名前を見て危うくケータイを落とすところだった。


『はい!』


慌てて出ると「起きてるか?」と少し気だるそうな声が聞こえ、心臓が大きく跳ねた。


『うん』


「そっか。」


そこから変な沈黙が続いた。電話の向こうから聞こえる小さな物音に、変にドキドキした。


「なんかしゃべれよ。」


『へっ!? あ…』


突然しゃべりだす仁に、声が上づり何も言えなくなった。


「フッ…ちゃんと弁当作った?」


『うん、おばあちゃんに手伝ってもらってなんとか…』


「そっか。 …じゃあ、もう家出るから切るわ。」


『うん。じゃあ、後で…』


「ん…」


 電話が切れたのを確認し、そっとケータイを閉じた。


『はぁ…』


しばらくベッドから立てなかった──


『行かなきゃ』


思い立ったように立ち上がると、リュックを背負い、台所でお弁当の入ったバックを持つと急いで家を出た。