肩を叩くか、声を掛けようか迷ってると、柚樹が私の背中を軽く押した。


『あの…』


私に気づき驚く仁は耳からイヤホンを外した。
前髪の間から、メガネ越しに目が合い、急に頭が真っ白になった。


『あのー…』


眉根を寄せる仁は、私を遠ざけようとしてた。
私の勘違いかもしれない。でも本当かもしれない。気づいたら、柚樹が仁に話しかけてた。


「緒方さん、僕の事覚えてますか?」


「うん。」


2人のやり取りを見て、静かにため息をついた。
私、なんでこんなに緊張してんだろ?いつもみたいに話しかければ良いのに。ギュッと鞄の持ち手を握り締め、ただ俯いたまま柚樹の後ろに立っていた。
これじゃ、ただの役立たずだ…


「…る、葉瑠?」


『え? …あ、なに?』


慌てて返事を返すと、首を傾げニッコリ笑う柚樹が嬉しそうに「緒方さん、一緒に帰ってくれるって!」と言った。


『そう、よかったね?』


無邪気な笑顔が輝いて見えた。それに微笑み返し、また俯いた。
 教室を出ると、仁と柚樹が並んで前を歩いた。柚樹の声しか聞こえないけど、一応返事はしてるらしかった。