『とりあえず、どうぞ。』


隣の席を勧めると、ペコリと頭を下げ座った。
そしてボソッと「…中村です。」と呟いた。


『中村くん…下は?』


「え?」


『私は桜庭葉瑠です。
まぁ知ってて来たんだろうけど?下の名前。教えてもらってもいい?』


ニッコリ笑い訊ねると、頬を赤らめ答えた。


「柚樹です」


『ゆずきくん…。 で、私になにか?』


ジーッと机の一点を見つめたまま、口を開いては閉じを何度か繰り返し、やっと帰ってきた返事が「緒方さんと親しいですか?」だった。


『緒方…仁の事?』


「はい。」


ドウイッタ カンケイ?
綾の時と同じ質問…。
あまり深く考えた事無かったから、改めて聞かれると返答に迷う。


『仁とは友達ですけど。』


「よかったぁ」


返事を聞いた途端、柚樹の顔が綻んだ。


『柚樹くんは仁の友達?』


「あ、いえ。」


『じゃあ…?』


「僕、前に緒方さんに助けてもらったんです。」


『ああ! じゃあ、あなたが…』


「僕、なにかしましたか?」


『ううん! それより、仁に助けてもらったって?』


「あっ、はい。」


それはちょうど、私と仁が気まずくなったあの一週間の間の出来事だった。