微笑む顔をまっすぐ見つめ、「行くぞ」に素直に頷き、冷え切った大きな手をギュッとした。


「仁!!」


「葉瑠に手出したら、どうなるか分かんだろ?」


その人はキッと唇を結び、私を睨んでいた。


「お前は俺の顔しか見なかったけど、ここには、顔を誉めるやつなんか1人もいない。
こんな俺を受け入れ、何があってもそばに居るって言ってくれた大切な人がいる。だから俺はここを離れない」


そう言って私に微笑んだ。


「だから、もう自由にして欲しい。響心(キョウコ)には、俺よりふさわしい奴がそばにいるはずだから」


「……諦めないから。」


仁を睨む目には、涙が滲んでいた。
 仁に手を引かれ、どしゃ降りの中をマンションに向かって走った。


「──そこで待ってろ」


びしょ濡れのまま部屋に入る仁を目で追い、服の裾を絞った。スカートからは、ピタピタと水が落ち、玄関に水たまりを作っていた。


「はい」


着替えて戻ってきた仁は頭からタオルを被り、私にバスタオルを手渡した。