『全っ然笑えないんだけど。私なんていつも不安なんだから』


「悪い……なんか、いま会ったら何もかも失いそうで怖いんだ」


『失ったらまた集めればいいじゃん?仁が私と柚樹を拾って?よう!っていつもみたいに』


「俺が今の俺じゃなくなったら?」


『そうしたら、私と柚樹が仁を拾う。ウザイって言われても、近寄るなって言われても手放してあげないんだから!!』


「やっぱ変わってるわ」


“あっ、やっと笑った”
 雨が弱まり、台所からいい匂いが漂ってきた。


「俺、そろそろ帰るわ」


『食べていかないの?』


「遠慮しとく」


『そう?』


ガッカリしながらも玄関先まで仁を見送ると、借りた傘とは違う紺色の傘を差し出した。


「あれでも良いのに…」


立てかけてある傘を見て苦笑いする仁に、『返すのはいつでもいいから』とお父さんの傘を貸した。


「ありがと、じゃあ」


『バイバイ』


手を振り別れた後の事は分からないけど、寝る前に届いたメールには“大丈夫だった”と初めてニコニコの絵文字入りで書かれてあった。