大人しく歩く仁が濡れないよう、相手から見えないように、少し傘を前に倒した。


「……ごめん」


『いいよ』


顔も見ず淡々と歩いていると急に引く手が軽くなり、ギュッと握り返された。
手から顔へと目線を上げると仁と目が合った。思わず逸らした顔が一瞬で熱くなるのを感じた。
 ─無事家に着き、仁の気持ちと、雨が弱まるまで居てもらう事にした。


「お茶でいいかい?」


タオルを取り行くと、おばあちゃんがそう訊いてきた。


『お茶より、温かいコーヒーとか、ココアの方がいいかな?』


「コーヒーにココア…」


そう呟きながら台所に消える姿を見送り、玄関で待つ仁の元へ向かった。


「ありがと」


『うん』


 おばあちゃんが淹れてくれたコーヒーとココアを飲みながら、雨が降る音を静かに聞いていた。
隣の部屋では1人お茶を啜っていたおばあちゃんが夕飯の支度のため、台所へと姿を消していた。


「何も聞かないんだな」


『前に聞いたし、なんとなく予想はつくから』


「そっか。…俺、お前になら話しても大丈夫な気がして」


『大丈夫じゃないくせに』


「あの日、ちゃんと決着つけたハズなのに、変にざわつくんだよ……」


『それは、今も好きってこと?』


「分からない。でも、それとは違う…胸騒ぎ?今までこんな事無かったのに、今すげー不安なの。笑えるよな?」