毎度のことながら教室には仁しかいない。耳鳴りが聞こえそうなほど静かな教室で、いつもなら音楽を聞いてる仁が、今日はジッと窓の外を眺めていた。
話しかけていいのか迷っていると、いきなり振り向いた仁に体が驚いた。


「いたのか」


『うん。なに見てたの?』


「なにも、ただボーっとしてただけ」


『ボーっと…?』


「帰るか?」


『うん』


帰り支度をする仁を見ながら、水樹は綾に会えただろうか?ふとそんな事がよぎり、気づくと窓際に立っていた。


『………。』


ヒンヤリした窓に手をかけ、フェンス越しに何かを見つめた。空と地面しか見えない殺風景な景色を、ただ見ていた。


「──行くぞ!?」


『うん!!』


振り返るといつもの仁がいた。ぶっきらぼうで、なに考えてるか分からないけど、思いやる気持ちをちゃんと持っている、いつもの仁。たまに恥ずかしがってそれを拒むけど、私はそんな仁も好き…──


 毎日変わらない道を歩いて、毎日同じ場所、言葉でサヨナラをする。
嬉しいハズの夏休みが近づき、春休みと同じ思いがこみ上げてきた。
きっと卒業するまでこの想いは消えずに残るんだろう。
 仁との時間なんてほんの少しだけど、その少しの時間があったから休む事無く学校に通えてるのかもしれない


「じゃあな」


その言葉すら悲しく聞こえる。夜なんか来なければいいのに…。笑顔で手を振り、『またね』と呟き家路を歩いた。
 少し歩いた所で足を止め、カメラを取り出すと、小さくなる背中にカメラを向けシャッターを切った。
まだ少し高い位置にある夕陽が、すべてを優しい色で満たしていた。