「ねえ、好きな子とかいるの?」


『教えるわけないじゃん』


「いいじゃない、そんな風に言われたら余計気になるわよ!」


子供のようにハシャぐお母さんに、だんだんイライラし始めてた。
早くこの場から抜け出したい。はやる気持ちと苛立ちを抑え、『いない』と嘘をついた。


「え~、本当はいるんじゃないの?」


『いないってばぁ』


それでも何とかして聞きだそうとするお母さんに、もう限界だった。


『もう、同じ事言わせないでよ!!いないものは居ないんだから!!』


「怒らなくても……」


『たまに帰ったからって無理に関わろうとしないで!』


それだけ言うと居間を出た。おばあちゃんがいた気がしたけど、そのまま階段を駆け上った。


「あの子も大人になったのね……」


微かにそんな声が聞こえた。


『はぁー……また言い過ぎた』


大きく息を吐き、ドアを閉めると制服のままベッドに飛び込んだ。


『ん~……』


しばらくボーっとしてると、カバンの中に香水があるのを思い出し、起き上がった。


『……あった!』


取り出した香水を両手で握ると、枕にひと吹き掛けると机の目に付く場所にそっと置いた。
甘い匂いが部屋を満たし、心を満たしていく……
 つまらないこの部屋も今日は好きになれる気がした。
少し背の高い本棚に、参考書ばかりの机。
クローゼットに入りきらなかった服が仕舞ってあるタンスを見て、再びベッドに倒れた。


『いい匂い……』


目を閉じると、仁の笑顔が見えた。
 制服な事も忘れ、お母さんに言った言葉も忘れ、誘われるまま眠りについた────