『ただいま』


戸を開け目に入った靴を見てタメ息が出そうになった。綺麗に並べられた黒いハイヒールに、お母さんが来てる事を知ったから。さっきまでの甘い余韻も消え、気分は一気に落ちていった。
 居間を覗くと、横になりテレビを見ながらお菓子を摘む母の姿があった。


『もうすぐ晩ご飯なのに、そんなに食べたら入らなくなるよ?』


そう声を掛けると、驚いた顔で私を見た。


「あら!おかえりなさい!」


『ただいま。』


返事を返し部屋に行こうと扉に手を掛けた時、お母さんに手招きされた。


「葉瑠、ちょっとお話ししない?帰ってきても、ちっとも喋ってくれないんだもの」


そう言ってテーブルに腕を伸ばし、座って?とばかりにポンポン叩くそれに少しだけつき合うことにした。


「学校はどう?ちゃんと勉強してる?」


『まぁ』


「アナタならもっと頭のいい所いけたのに、今の高校で本当に良かったの? 後悔してない?」


『してないよ、自分で決めたんだから。それから友達も出来ましたから心配しないでください』


「そう、素っ気ないのね?」


そう言いつつも楽しそうだった。