「俺に訊くなよ」


『ごめん』


「変な奴……」


また歩き出した仁の後を追うと、柚樹の事を報告した。


『無事に仲直り出来たよ?』


「ん~、よかったじゃん」


『うん。……待ってる間何してたの?』


「寝てた」


『ずっと?』


「ずっと」


『ふ~ん……』


ピタリと止んだ会話に続きはなく、ただ生ぬるい風と微かに香る甘い匂いがずっと続いていた。


『何かつけてる?』


「ああ、香水。匂うか?」


『うん、甘くていい匂い』


「よかった」


そう微笑むと、カバンの中から香水の瓶を取り出した。


『持ってきたの?』


「入ってたんだよ。昨日掃除した時にでも落ちたんだろ?……お前つけるか?」


『えっ?』


戸惑う私の手に香水の瓶を握らせると、「やるよ」と微笑んだ。


『ありがとう』


その香水を両手で抱きしめ、そっとカバンに仕舞った。


「じゃあな?」


気づけばそんな時間になっていた。


『じゃあね』


笑顔で交わしたさよならに背を向け、家路を歩いた。足は重たいのに、心は軽かった。