ダサカレ─ダサイ彼氏ハ好キデスカ?

目線を上げると、「楓に帰ったって伝えといて!」と微笑する柚樹の兄であり、綾の彼氏が立っていた。


『水樹、さん?』


名前を呼ぶと私をまっすぐ見て「柚樹に聞いたの」と訊いてきた。


『はい』


「そっか、柚樹には俺が居ること黙っててくれるか?あいつ嫌がるから」


微笑んでいてもどこか悲しげだった。軽く手を上げ部室を出て行くのを見送りながら、入部した日からずっと水樹さんと話してた事実に気づいた。


『また隠し事が増えちゃった……』


ため息と共に本を閉じ、元の場所に本を返すと部室を出た。そんなに間をあけずに出た筈なのに、水樹さんの姿はもうどこにもなかった。
 薄暗い廊下がだんだん明るくなり、自分と窓枠の影を見ながら仁が待つ教室に向かった。
 今日は早く終わったから、ビックリするかな?勝手に反応を想像して、笑っていても誰もいない廊下だから、と油断しそうで時々周りを見渡しながら歩いた。