「入店証を見たんですね?」
「ええ。バイト先の入店証だったの」
「バイト先は?」
「コトブキ堂」
「……え……」
「名前までは覚えてないんだけど……。胸ポケットに留めてあった」

住職はお経を読み続けている。
名前を覚えていないなら、意味がない。
彼女を殺し、結果的に穂高まで死なせることになった犯人には、到底届きそうになかった。

「ありがとう」
「え」
「あたしのために……ありがとう」

そう言って微笑んだ、彼女の姿はいつの間にか消えていた。

「逝かれたようですな」

寺の住職が微笑んだ。

「……はい。ありがとうございました」
「あなたは、善いことをなさいました。気をつけてお帰りなさい」