(しまった!)
思った瞬間には鞘から抜き掛けに切り付けていた。
柔らかな肉に刃が食い込む感触を覚悟した。
――――…が。
――ガキンッ!
硬質な金属音。
ベリルの短剣が、ドルメックのナイフをしっかりと受け止めていた。
ドルメックは目を見張る。
なんとベリルは素早さで勝る盗賊の、ドルメックのスピードについてきたのだ。
ドルメックのナイフとベリルの短剣がギリリッと音を立てた。
闇夜に煌めくエメラルドの双眸。
「憎しみは暗闇に囚われるだけだ。そんなものでドラゴンなど倒せやしない」
仲間が捕らわれ利用される悔しさや憎しみ…。
そこから引き出される怒り以外の何を力の糧とすればいいのか、ドルメックには分からなかった。
「うるさい!お前に何が分かるというんだ!」
ナイフを弾き、大きく跳びすさる。
ドルメックの根底を支える意志が、今にも崩れ落ちそうに揺らぐ。
自分の歩んで来た道程。
その全てを否定する言葉が、いとも簡単に紡がれた。
身体が震えるのを止められなかった。
まるであの日――匿われ、守られることしか出来なかった子供の頃に引き戻された様だった。
(……あの時はただ俯いて震えていることしか出来なかった。
仲間を取り戻す為に身に付けたこの力を否定されたら…)
――…何も残らない。
その事実を逃れる術も無く、突き付けられた。

