そして奴に刃を向けた。




しかし、俺はそのまましばらく動かなかった。

いや、"動けなかった"。

『…どうした』

机にもたれ掛かった柏倉は、取り乱すことなく静かに言った。



俺は自分の呼吸が荒いことも

ナイフを握る右手が震えてることも

分かっていた。

俺は左手も添えて両手で構えた。

『…っはぁ…はっ…』

人に刃物を向ける恐ろしさを知った。

"主導権"は握った。

俺の次の行動によって奴の生死が左右される。


―こんなナイフ一つで

人の命が簡単に奪えてしまう。




『……やれ』

ふいに柏倉が、ポツリと言った。

『!!』