「い、五十嵐先輩」

「柚ちゃん。」


囁き声で名前を呼ばれてどきっとした。
なのに先輩は自分の口に人差し指を当ててにこっと微笑む。

かっこいい・・・。


先輩の言うことを聞いて黙っていると


「い、いえ。広瀬先輩・・・これからもがんばってください!」

「ありがとな、一ノ瀬」


あれ。この声って・・・。
京子と広瀬先輩だよね!?

道場の壁を見上げると、ちょうど窓がひとつ開いていて
そこから会話がクリアに聞こえるみたいだ。

でも、何で五十嵐先輩が?


「驚かせてごめんな?」

「い、いえ・・・」


京子と広瀬先輩の声はまだ楽しそう。

そんな中、私達はやっぱり囁き声で話した。


「俊が、どうしても今日一ノ瀬さんに言いたいことあるっていうからさ。見張り番やってたんだ」


この調子だったらちゃんと言えたみたいだね。と先輩は笑った。
優しい口調と後輩思いの気持ちにまた私の胸がきゅっとなる。

ん・・・。言いたいこと?


「先輩、それって広瀬先輩も京子のこと好きだったんですか!?」

「“も”って・・・一ノ瀬さんもそうだったんだ?じゃあ俊は晴れて彼女ができたわけだ」


また先輩は人差し指を・・・

今度は私の口に近づけた。



「このことは内緒・・・な?」