果たして、「理」という言葉は、この世界に存在しているのだろうか。


幸福は壁に寄り掛かり、煙草に火を着けながら、ふと思った。

煙草を一口吸う。


……味気無い。不味かった。



「理」とは、時に正常に作用し、時に無情に作用する。

例えば、この煙草。煙草に火が着けば、その火は染み入る様に侵食し、煙草を全て灰へと変える。これは正常な作用をする理だ。

火は、モノを燃す。単純、且つ明解な理。



そして………



幸福は、虚ろな視線を、煙草の火から周辺へと向けた。

「これもまた……理か。……………クソが」


全壊、若しくは半壊した雑居ビルの群。割れた窓ガラスが一面に散乱し、無数に光を反射している。

歪んだ地面。鋪装された道路がのたうち回り、亀裂が道を寸断していた。


そして、

所々に目に入る、大きな消し炭の塊。


      ・・
      人間


その成れの果てであった。