ゴーストオブアイデンティティー

でも…これも悪く無い。
日常―――こんなにも近そうで遠く手の届かないモノが、ここにある。



「儚…これも君の仕業?もしそうだとしたら…やはり君は大物だよ」


業火に焼かれしその身、朽ち果てて尚強くあり――

幸福へのこの言葉は、儚にも当てはまるかも知れない。彼女が亡くなっても、まだ彼女の残り香が目の前にいる運命、そして幸福に感じられる。

朽ち果てて尚、強く在る。

当然の様に。普通の様に。日常の様に。


サラサラ、儚が桜の中に溶け込んで来る。



「さくら?」

自分の背中を押していた桜の手がふと止まり、運命は桜を見上げた。


その無表情で見上げてくる運命を見て、桜は泣きたくなった。どうしても、泣きたくなった。


何故だか、どうしようもなく桜には運命と儚が重なるのだ。

黒い髪と、卵形に整った美しい顔。無垢な表情。

正に儚の生き写しだ。彼女が残した、最後の宝。



しかしよく生きていられたと思う。彼女は服装からして、それなりに大切にされたのだろう。持品は全て一級品だ。

だが、それは本当の意味で大切にされた、という訳ではないことを運命という存在が証明している。

まるで何も知らない。無垢というか無知というか…否、無知であるが故の無垢、か。