ゴーストオブアイデンティティー

「一先ず、中に戻ろう運命。夜風は体に障るからね」


片手を運命の背中に添えながら桜は部屋に戻った。運命はただそれに従った。

桜はキャメルをポケットに戻して、白衣の臭いを嗅いだ。案の定、煙の臭いが染み付いていた。


「…たまには洗濯でもしてみるかな」

呟いてみる。洗濯などと言う人間らしい生活は、かなり懐かしい。空調の管理された部屋での生活は汗をかくという行為を無くしてしまう。洗濯とは無縁の生活を送っていた。汚れたら取り替えて、替えが無くなりそうになったら溜まった洗濯物をTシャツだろうが白衣だろうが、まとめてクリーニングに出す。

「まるでダメな主婦みたいだ」


そうだ、主婦まがいのついでに料理とやらをやってみようか。高校時代の調理実習以来包丁に触れてはいないが……まあ、なんとかなるだろう。

レシピ、私にでも出来そうなレシピはあるだろうか?




桜は失笑した。するしかなかった。こうして考えて、考えるだけで前途多難な己の無知さを、失笑せずにいられようか。