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幸福が部屋を出てから、桐はただ何をする訳でもなく、呆けて輪状の明かりを見ていた。

ムトは何も話し掛けてこない。存在が分からないので見た目、部屋に独りだが、桐はどこかしらから来る視線が気になった。


足はチリチリと痛むが、我慢できない事はなかった。ただ包帯できつく縛ってあるので、違和感がかなりある。


何かを考えようとして、しかしその何かが出てこない。そんな自分が桐はもどかしく、苛ついて、諦めた。

小学生だった頃の夏休みを思い出す。毎年祖母の家へ行き、自分の知識の限りを尽くして遊び尽くし、そして全てやりつくした、その後の気だるい倦怠感と疲労感に、桐は昼寝といった形で自分の家に帰るまで日々を過ごしていた。その時の感覚に、よく似ている。


それはつまり、今まで桐がやってきた事は全て、それなりに、それ以上に疲れる事だったという事だ。

幸福を敵として挑むこと。

知らぬ間にそれが驚く程に精神負担となっていたのだ。