「…………闇風だと?」

「…そうとしか。と、いうより、あんな気色悪い服装、思い当たるのは闇風一人だけですよ」


そうだな、と、ヤナセは双眼鏡を覗き込みながら思った。

桐の病院から2km程の距離にある、ビルの屋上。

超高性能双眼鏡の倍率を1500倍にして、ようやく見つけた人物が、よりによって座敷闇風とは…運が良いのか悪いのか。

幸福に関連する人物が現れたのは、幸運だ。だが……

よりによって、闇風だ。

科学者の端くれでもあるヤナセだが、否、科学者だからこそ解る、闇風の異才。

闇風という少女。
今は確か数えで十七。

昔の幸福とは、何かが違う。幸福は冷酷な雰囲気を持つ少年ではあったが、しかしまだ人間味とやらがあった。
闇風は違う。人間「らしさ」が無い。座敷家の真髄、なのだろうか。
冷酷や温和という、感情の温度が無いのだ。0度の人間。

生まれながらにして廃人。

それが闇風だった。