空

『ガチャ…』

父さんが仕事から帰ってきた。
…言わなければいけない｡

俺、歌手になりたいんだ

って。

深く深呼吸をして自分の部屋を飛び出し、階段を一気に駆け降りた｡

俺に気付いた父さんは笑顔で「ただいま」と言い､ソファーに座りビールを飲んでいる。

言わなきゃ……

「父さん、俺歌手になりたいんだ。
今まで医者になりたいって言ってた俺にいろいろしてくれたのにごめん」

父さんはビールをテーブルに置き、驚きを隠せないような顔で俺の顔を見つめていた。

「寝ぼけたこと言ってないでちゃんと将来のことを考えなさい。
お前は歌手で食べていけると思っているのか？」

心が折れそうになった。
でも、
「食べていける、いけないの問題じゃなくて、俺はやりたい仕事に就きたい」
俺は本当の気持ちを言った｡

父さんは
「学費の高い私立の学校に入れさせてやったのに…｡
…もう勝手にしなさい」

父さんから返事を聞いた俺は、部屋に戻って決めた。

学校を辞めよう。

そして、歌手になって父さんと母さんに恩返ししよう。



そのあと俺は学校を辞め、家を出た。

もう迷惑はかけられない｡
そんな気持ちでいっぱいだった。

家を出ていくと言ったときの父さんと母さんの顔が見れなかった。

俺は涙をこらえ、家を勢いよく飛び出した。