MEMORIAL ADRESS

それに反応して顔を上げた瞬間








全ての時間が止まった。








高い背、それに似合わず良いガタイ。

丸くて大きな目に色褪せた黒い髪…



「大丈夫ですか??すいません、俺がぼぉっとしてたから。」



その男は申し訳なさそうに言って、沙羅の手を掴んで起こした。



「あ、煙草拾いますから」



散らばった煙草を拾い上げ手渡してくれた。



「あ…ありがとう…ございます…」



体の中の全てがフリーズしたようになって、いつもの乱暴な啖呵が出て来ない。

男はにこりと笑って、頭を下げ公民館の奥へ消えた。

しばらくその場に立ち尽くした。

体の芯から熱くなっていくのが自分でも分かる。

そんな感覚は初めてだった。

喧嘩のときも、暴走に出るときも…こんな気持ちにはならない。

こんな気持ちの高ぶり方は17年生きてきて今日が初めてだった。



「加藤、公演始まるぞ」



少し離れた所から増川が呼んでいる。

その声も遠い海鳴りのようだ。