医者は、ゆっくりと教えてくれた。


俺は、会社員で。


日付はもう変わってしまったらしいけれど、ここに運ばれる前は会社の飲み会に参加していたらしく。


帰りに上司のあの泣いていた女の人……レイコさんと言うみたいだけど。


家まで送ろうとした。


そして階段を降りていた時に誤って足を滑らしたレイコさんを庇って自分が落ちてしまった、と。



で、頭を強く打って思い出せなくなった……。


打ち所が悪かったのだろう、と医者に言われた。


だけど、他は怪我、打ち身だけで済んで良かった、と。



まだ聞いた出来事が起こってから数時間しか経っていないにもかかわらず、分からない。



自分の身に起こった事のはずなのに、俺は他人事のように聞くことしかできなかった。


話を聞きながらも、体のあちこちが落ちた時の衝撃で身体中が悲鳴をあげている。


この痛みだけが、他人事じゃないんだぞ、と教えてくれているようだった。