「努力するよ」
「無理しない程度に、ね」
「ん」
この、昔と同じ雰囲気が好き。
記憶は無くても、涙は涙だって事が分かるから。
ずっとこうやっていられたら……そう思うけど、そんな時間はすぐに崩される。
――――コンコン
ドアをノックされる音。
「はい」
涙が、私からドアへと視線を移してドアの外の人物へと声をかける。
ゆっくりと、ドアが開く音がして
「あら、本城さんもいらっしゃってたのね?」
私が、涙と会わせたくないと思っている人物が、姿を現した。
「どうも……」
軽く頭を下げたけれど、その挨拶を無視してレイコさんは涙の方へと来る。
「渡した仕事、進んでる?」
「順調ですよ。こっちは出来たのでデータ渡しておきますね」
さっきまでと違う、仕事の顔が見える涙。
パソコンの横に置いてあったメモリーをレイコさんへと手渡す。
「こっちのもお願い出来るかしら?やっぱり城戸くんは、仕事が早くて本当に助かるわ」
「退院したらもっと頑張りますから」
「えぇ。皆待ってるわよ?」
……私の知らない、会社での涙が見える。